旅行作家の下川裕治さんが描いた沖縄の離島勢としてはじめて甲子園出場を果たした八重山商工野球部のお話。夏のこの時期にぴったりですよ。

小学生だった90年の夏、沖縄水産対天理の決勝戦に涙したときに感じた沖縄水産の強さは本島の強さで、離島の高校は人口や距離の問題を抱えながらもずっと本島の壁を越えての甲子園出場を夢見てきたわけです。

その壁を超えたのが現在ロッテで活躍する大嶺祐太を擁した2006年。いわゆる野球馬鹿の伊志嶺監督が技術の差を自身の経験と練習量で埋め、リトルリーグから鍛え上げた選手に声をかけてまわり、監督自ら遠征費を捻出し県外の強豪校との対戦経験を積ませチームは強くなっていくのですが、面積の狭い離島ならではの島文化や収入の低さなどの事情にぶつかり順調には進みません。

選手は高校野球ならではの先輩後輩の厳しい縦社会よりも島での横のつながりが大事で、先輩を「に〜に〜」と呼んでしまう程。また、格上の相手に善戦するかと思えば、格下の相手と点差が開くと手を抜いてしまい危うくひっくり返されそうになるムラのある気質。監督はこの選手の気質を強く指導しようするけども、当の監督自身も島の出身ということで、その指導もどこか詰めが甘く徹底しきれない。その結果か、監督に対する選手の距離感も本土の高校の関係に比べ全然に近い。

なんだかユルいんですよね。全国レベルで高校野球やっとるのに。

ドラッガーを読んだとしても簡単に解決できない島特有の事情と、愛すべき魅力が旅行作家ならではの視点で語られています。その環境と戦いながらも、一方で離島を受け入れたチームの魅力がうまく表現されているなと感じました。よくこの条件下であの実績を出すチームを作れたな。


遠くオーストリアで野球を伝導している我が代の主将にも読ませたい一冊。
勧めてくれたYさんに感謝。

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育成力※本著でも対戦相手としてちょろっと出てきますが、横浜高校渡辺監督の本。
南の島の甲子園―八重山商工の夏 (双葉文庫)
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  • 発売元: 双葉社
  • 価格: ¥ 620
  • 発売日: 2009/06/11
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