雨の順延のせいで、いまだ今年の夏の甲子園はリアルタイムで観れず。twitterでだいたいの話題を把握しつつの録画と熱闘甲子園での振り返りの日々です。

で、どうしてもしっかり書いて自分自身整理しておきたかった試合が3日目の市和歌山 対 鹿屋中央戦。1死一、三塁からのセカンドへのゴロを一塁へ投げてしまい三塁ランナーがホームインしてサヨナラ(記録は内野安打)という試合。



twitterで話題にあがっていたのは知っていたけど、その日の2chのまとめ(なんJまとめの敢えて色つけたコメントとか)やyoutubeで、さも珍プレーやらお粗末なプレーといった酷い書き込みが多くて唖然としました。ありえない。「バウンドが変わって頭が真っ白になった」という背景には、それ相応の難しい判断があったからですよ。だからこそ、「満塁策をとるべきだった」や「はっきり本塁へ投げる一択の指示をすべきだった」という判断をシンプルにするべきという意見は選択肢の一つとしてすごく理解できます。

既に結果は出ており、たらればで、じゃあどうするのが最適だったという話に答えは出ません。また議論するつもりもないので、今回はあの一連のプレーの前提を整理することで、僕はあのプレーが珍プレーではないと思う気持ちを確かめていきます。

■満塁策は選択せず
まずは、最後のバッターが打席に入る前の確認事項から。はじめに判断すべき分岐点は、打者(9番で途中交代のピッチャー)を歩かせて満塁策をとるかどうかです。結局これは選択しなかったわけですが、当然選択肢の一つではあったでしょう。1点取られれば試合終了という場面。本塁でもフォースアウトができ守りやすい反面、最も怖いのは四死球での押し出しです。

市和歌山のピッチャーは、それまで44人の打者に対して四球と死球それぞれ1個ずつ、それまで11回1/3で球数129球を投げてました。素晴らしいコントロールだと思います。が、やはり疲れのでる試合終盤で、且つ歩かせたら即試合終了というプレッシャーでの四死球は、単純に2/44では想定できないでしょう。奇しくも、同じ日の第四試合では延長11回裏に押し出しの四球で試合が決しています。

とはいえ、選択肢の一つとして十分手札にあるべき戦術です。

■バックホーム体制は敷かず
満塁策を回避した時点で、バックホーム体制を敷くかどうかの判断が待ってます。バックホーム体制を敷くということは、三塁ランナーが突っ込むかどうかで本塁でのタッチプレー、もしくはファーストでのアウトを狙うわけです。この場合、一塁ランナーが余裕で二塁へいけると、結果満塁策になっちゃうのである程度二塁への盗塁をケアした体制をとります。タッチプレーの分、守備位置は満塁策に比べて前進することになるので、内野の間を抜ける確率は最も高くなります。満塁策での四死球の怖さとのトレードオフって感じですかね。あとは上位打線よりは下位打線と勝負しときたい、とか。

この戦術も選択したとして何らおかしいものではありません。

■「三塁ランナーの動きを見ながら対応するように」(試合後の監督インタビュー)
で、最終的に満塁策も一、三塁でのバックホーム体制も敷かず、三塁ランナーの動き次第で「本塁で刺すか、状況次第で二塁、一塁での併殺」(スポニチ記事)という判断を内野の守備陣へ任せることを決めたわけです。基本は、スポニチの記事にあるような本塁で刺すが第一で、ゲッツーとれるようなら狙うという優先順位でしょう。この場合、セカンドの打球判断としては打球の強さや飛んだコースによって、

  • 本塁で刺せるし、ゲッツーもとれる
  • 本塁で刺せるけど、ゲッツーはとれない
  • 本塁で刺せないけど、ゲッツーはとれる

の三パターンが考えられます。それも、バックホーム体制ではないので、三塁ランナーはゴロゴーで素早くスタートを切ります。ゲッツーがとれるかとれないかの判断が少しでも遅いと、「本塁で刺せるけど、ゲッツーはとれない」打球は直ぐに本塁で刺せなくなってしまう。打った瞬間にゲッツーがとれるかどうかを如何に素早く判断できるかどうかが肝となります。

以上が、実際にラストプレーが起こるまでの前提です。

この最終的な方針についての意思決定は、最後のバッターが打席に入る前に、しっかりとタイムをとって内野陣集まって確認しているので、「アウトカウント間違えた」とかいうコメントはあり得ないわけですね。そうやってタイムをとって集まったにせよ、あれだけ短時間でどれだけの可能性を考慮して、この方針を選択をしたのかわかりません。

ちなみに、この最後の打者は左バッターですが、この試合で2度(初回と2回)成功させている4-6-3のゲッツーではどちらも左バッターです。そして、その2度のゲッツー時の守備位置に比べて、最後の場面の守備位置はかなり前でした。ラストプレーの時は、実況いわく「内野の守備位置は塁間を結ぶ線上あたり」。動画を見返すと一二塁間を結ぶ線より3歩ほど下がったところでしょうか。そんな守備位置のセカンド正面へおあつらえ向きの打球が飛んできた、、、が、2バウンド目で打球がイレギュラーします。

あくまで想像ですが、打った瞬間に「ゲッツーいけるっ!!」って判断したでしょう。ゲッツーいけるってことは本塁への送球はなしと1度判断します。それが、打球がイレギュラーしたことによって捕球体制が崩れ、二塁に投げられなくなってしまった。「ゲッツー無理」 => 「本塁へ送球」の判断だけでも難しいのに、「ゲッツーいける」 => 「イレギュラー!?」 => 「なんとか捕球したけどゲッツー無理だ。どうする???」 ってなった時に、身体がどう動くか。恐らく二塁へ投げるよう準備していたでしょう。それを急に本塁へ投げようと変更することの難しさ。ゴロゴーでスタート切って既にだいぶ本塁近くまで走ってる三塁ランナーの位置。そういう想像をしていると「頭が真っ白になった」という彼の言葉に僕はすごく納得できるわけです。

もちろんミスはミスですが、決して珍プレーやお粗末なプレーなどと、あまつさえ笑われるようなプレーではなく、非常に難しい判断を伴ったプレーだったと思います。